第82回話音倶楽部

2017年10月7日(土)


2017年10月7日(土) 午後4時開演 
 
【出 演】
唐華〈タンファ〉(中国琵琶) 

 
今回の話音倶楽部のゲストは、2011年以来2回目の登場となる中国琵琶奏者のタンファさんです。現在は中国の成都にお住まいですが、12年前まではご家族と一緒に日本の高松市に住んでおられました。私たち研究所のメンバーとはその頃から音楽を通じてご縁があり、こうして今回の演奏会を催させていただくことになりました。

埼玉や横浜など遠方からのお客様もいる中、「日本語が出てこない」と少し緊張した面持ちでの演奏会の始まりとなりました。

一曲目は明の時代の古曲「陽春白雪」。
「陽春」「白雪」という中国の詩をもとに作られた曲だそうで、中国では知らない人はいないくらいポピュラーな曲だとのことです。その明るく清々しいメロディの変奏に、会場のお客様もぐっと琵琶の世界に引き込まれたようでした。演奏が終わるやいなや、満面の笑顔でお客さんを見回すタンファさん。少しの沈黙の後「どうでした?」の一言で会場の雰囲気が一気に明るくなりました。

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次は随・唐の時代の古曲である「寒鴉戯水(かんがぎすい)」という曲です。
昔々に作曲され、他の文化の影響を受けずにいた貴重な曲(音楽の化石!)だそうで、現代のようないわゆる「ドレミ」のような音階ではなく、ドでもないレでもないミでもない、揺れ動いた音調からなる曲だとのことです。最近はこのような曲にこだわって弾いているとのことでした。ゆったり間をとり、ゆらゆら揺れる不思議な音色からなる演奏は、まるで水墨画の桂林が目に浮かぶようでした。

   

ここでタンファさんから琵琶(中国ではピパと発音)についてのお話。
もともとこの楽器は中国のオリジナルではなく、シルクロードからその原型となる楽器が伝わったそうです。それが中国土着の民族楽器とミックスされ、今に伝わる中国琵琶になったとのこと。日本にも唐の時代に琵琶が伝わってますが、中国琵琶は指と爪、日本の琵琶はバチによる奏法と、技法も弾かれる曲も全く異なるものとなっています。この「指と爪」で弾くという技術が、シルクロードから伝わった原型からもっとも進化した部分で、これによって豊かな表現力を手に入れたとのことでした。

また、フレットの幅が広くとられていることから、この楽器の特徴である豊かなビブラートが可能になり、上下左右、独特な余韻で音色に色彩が生まれるそうなんです。ここで日本の曲「赤とんぼ」を例に出して、ビブラートなし・ありで弾き分けてくださいました。ビブラートたっぷりで演奏されたそれは、普段私たちが耳にするあの曲とは全く違い、まるで中国の伝統曲のように聞こえました。

楽器の解説をたっぷり聞いて興味深々なところで、次の曲「スワン(劉徳海)」へ。
先の二曲とことなりこれは現代曲で、琵琶の曲の中では初めて長調と短調を混在させて作られた曲なのだそうです。琵琶の新境地を開いたとのことでしたが、現代の私たちが聴くと馴染み深いキャッチーなメロディで、お酒のCMソングに使っても違和感がないような楽しい曲でした。

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ところで先日、10月4日は「中秋の名月」でしたが、中国でも日本と同様にお月見を楽しむ習慣があるそうです。タンファさんも月餅とプーアル茶を共にお月見を楽しんだとのことですが、お話はそこからお茶の淹れ方、珍しい月餅の話となり、
そのまま次の曲「彩雲追月(王範地)」へ。
これはお月見をテーマにした曲だそうですが、スローワルツのようなゆったり揺れるメロディは、小さな小舟で月を眺めているようでした。

多くの曲でその楽器を主役にした協奏曲がありますが、次の曲は日本人作曲家の三木稔さんが作曲した「琵琶譚詩」から第二楽章をソロでの演奏。
タンファさんにとっては「他の国から見た中国の文化」的な視点を感じられる曲で、日本人の美意識や日本の音階が多用されるため、非常にチャレンジングで難しい曲なのだそうです。実際、演奏されたその曲は、先ほどの中国琵琶独特の世界とはうってかわって、日本の琵琶法師の琵琶に近い雰囲気があり、現代的な不協和音も織り混ざった哲学的な印象がありました。

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そして、恒例のワインタイムを挟んで後半へ。
「次の曲はワインに合いますよ」とタンファさんがにっこり。「天山之春(王範地)」というシルクロードの7音階から影響を受けた楽しい曲とのこと。
ゆったりとしたコブシをきかせた導入を聞いて、これがワインに合うなんてどういうことなんだろうと不思議に思っていましたが、突然、パッと軽快でくるくる回るような軽やかなメロディに。さながら中国版「チャルダッシュ」といったところでしょうか。確かに、ワインにぴったりな演奏でした。

最後は、有名は項羽と劉邦の戦いを描いた大曲「覇王卸甲」です。
タンファさんにとって非常に思い出深い曲とのことで、高松に住んでおられた20年前、壇ノ浦の戦いで有名な屋島で、日本琵琶の上原まりさんと共演でこの曲を演奏されたことがあるそうです。日本琵琶は平家物語を、タンファさんは覇王卸甲を、日本と中国の有名な戦記をテーマにした曲を聴き比べるという企画だったそうです。平家物語とことなり、今日のこの曲は語りはないですが、起承転結様々な物語が目に浮かぶような曲想で、ドラマチックで情緒豊かな演奏に心を奪われた方も多かったのではないでしょうか。

   

アンコールは平岡俊之さん作曲の「Water Necklace」「I Wish」を続けて2曲、ギターの岡村綾子さんとの二重奏で演奏されました。
成都に在中のイタリア人のギタリストがこの曲を見つけてきてタンファさんと共演されたところ非常に評判良かったとのことでアンコールに決めたそうです。今日はなんとその平岡さんが会場にもいらしており、タンファさんも初めてお会いしたとのことでした。物憂げなメロディではあるけど決して暗いわけではない特徴的な曲で、ギターと琵琶の響きが新鮮で、強く弾く琵琶と、ギターの柔らかい音色ととてもマッチしていました。

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そして、ここで演奏会終了というところで「チャルダッシュ」のリクエストが。
タンファさんはびっくり。「練習不足だから弾けない!」と躊躇っていましたが、「ヴァイオリンの曲をアレンジして、こんな風に琵琶で弾けることを知って欲しい」とのことで演奏することに。ピアノやギターと一緒に演奏されることの多いチャルダッシュですが、今日は琵琶のソロで。ソロゆえのタンファさんの持ち味がたっぷりつまった、格別によい演奏で感激しました。

これからも、音楽を通じて日本と中国にできたこの細く長いご縁が続きますよう、一同祈っております。
素晴らしい演奏、本当にありがとうございました。   (石田政章 記)
 
 

 
 
●プログラム● -------------------------------------------------------------------

 

 

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●リハーサルにて● ---------------------------------------------------------------

  

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●プロフィール● ---------------------------------------------------------------
 
唐華〈タンファ〉  Tang Fua   中国琵琶
 
中国四川省成都市に生まれ、音楽家の両親の元、幼児期より音楽に親しむ。7歳からヴァイオリン、9歳から琵琶を始めた。
四川音楽学院大学付属高校に琵琶専攻で入学。同大学民族音楽学部を最優秀で卒業。琵琶演奏家、教育家の王範地氏に師事。
1986年国立中央歌舞団に入団しソリストとして活躍。
1991年まで同団での重要な活動に参加しつつ、同時に新作の演奏やドラマ、映画の録音でも活躍。
1991年活動の場を日本に移し、以来多くのリサイタルや音楽祭参加のほか、和楽/洋楽、シンセサイザー、舞踊との共演等、幅広く演奏活動を続け、その確実なテクニックと美しい音色で聴衆を魅了し続けている。
1995年には北米に演奏旅行。
1998年香港で香港愛楽楽団と共演。
1999年台北市政府の招きにより台北国家音楽ホールにてリサイタル開催。
2002年唯是震一作曲、中国琵琶のための協奏曲「桃源」を東京にて初演。
2004年5月にはドイツ3 都市にてリサイタルを開催、いずれも好評を博す。
2004年7月帰国、二人の男の子を育てながら中国と日本を行き来しつつ演奏活動を続けている。
2006年と2010年、2014年にヨーロッパ国際撥弦楽器音楽祭にソリストとして招待され、演奏し好評を得る。
2016年5月30日に成都民族管弦楽団と中国琵琶の協奏曲を共演。
2017年3月4日にアンサンブル テスタ カルド第15回演奏会の委嘱新曲、solo中国琵琶とマンドリンアンサンブルの協奏曲「結歌~むすびうた」(鷹羽弘晃氏作曲)を共演した。

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今年3月4日のテスタ カルド第15回演奏会で華麗な演奏を披露くださった
  中国琵琶奏者の唐華〈タンファ〉さんが、秋の話音倶楽部に登場します!